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~インダストリー 4.0とは~

インダストリー 4.0(Industry 4.0)とは2011年11月に公布された「High-Tech Strategy 2020 Action Plan(高度技術戦略の2020年に向けた実行計画)」というドイツ政府の戦略的施策の1つに基づくものです。(なお、ドイツ語ではIndustrie 4.0と表記します。)そもそもは、産官学の共同プロジェクトとして推進され、有識者で構成されるワーキング・グループと科学技術アカデミーが素案をまとめ、2012年10月にドイツ政府に対する提言書として提出されました。そして、2013年4月に一大プロジェクト・チームを組成し、国を挙げて実現に取り組み始めました。この戦略の使命は、革新的な研究を重ねることで技術的なイノベーションを生み出し、モノづくり国家としてのドイツの高い競争力を堅持することにありました。

その背景には、ドイツの従来の製造業を取り巻く環境の変化があったからです。ICT(情報通信技術)における米国の優位さや、労働やエネルギーのコスト増大、それに消費者ニーズの多様化に対応した高付加価値製品の製造への要求など、これらの変化に対処して行かないと、ドイツが従来持っていた製造業の分野での優位性が失われてしまうとの危機感があったものと考えられます。

世界の他の国々も、同様な取り組みを既に始めており、それぞれ独自の名称を与えているようです。米国ではIndustrial Internet、中国では中国製造2025、日本ではConnected Industriesといった具合です。ただ、当初のドイツのIndustrie 4.0では、モノづくりの現場のデジタル化、スマート化を目指した、後述するスマート・ファクトリーの実現がその目標でしたが、米国で2014年の3月に発足したIndustrial Internet Consortiumが表明したのは、より幅広い産業界全体をスマート化して行こうとするもので、スマート・ファクトリーはその一部であるという位置付けでした。そして、2015年には元々のドイツのプロジェクトのメンバーである企業も、この米国のコンソーシアムに参加するようになり、現在世界中で一般的に言われているインダストリー 4.0のプラットフォームを作るべく努力しています。

このプロジェクトが第四次産業革命と呼ばれる理由は、産業革命と呼ばれるような、技術革新による産業構造の変化および経済発展が、過去に3度あったからです。
第一次産業革命は、18世紀末に英国で始まった、人力を代替する機械力の導入でした。その中心は蒸気機関や水力機関で、自動織機の開発は、繊維業の生産性を飛躍的に高めることになりました。
第二次産業革命は、20世紀初頭に米国で始まった、電力を使用した労働集約型の大量生産方式の導入でした。一例としては、米国のフォードが導入した、ベルトコンベアー方式による自動車の大量生産がこれに当たります。
第三次産業革命については、どの事柄を意味するのか、実は見解が統一されていないようです。20世紀半ばのコンピューターの発達と原子力エネルギーの活用であったり、1990年代からのコンピューター、ICT(情報通信技術)による生産の自動化、効率化であったり、21世紀初頭のインターネット技術の発達と再生可能エネルギーであったりします。ドイツによる定義では、1970年代の初頭から始まった、産業用ロボットやFA装置等の導入による、生産効率の大幅な向上が可能になったことを指して、第三次産業革命としています。自動車の組み立て工程における工業用ロボットの導入などが、電子技術の導入による、生産工程の部分的な自動化ということで、その一例となるかも知れません。現在の工場は、この技術を活用したものです。

そして、第四次産業革命は現在正に進行中のもので、過去の産業革命を更に進化させて、「サイバー・フィジカル・システム(Cyber Physical System)」に基づく、新たなモノづくりの姿を目指すというものです。サイバー・フィジカル・システムとは、センサー・ネットワークなどによる現実世界(Physical System)と、サイバー空間の高いコンピューティング能力(Cyber System)を密接に連携させ、コンピューティング・パワーで現実世界をより良く運用するという考え方です。モノづくりでは、設計や開発、生産に関連するあらゆるデータを、センシングなどを通して蓄積しそれを分析することで、自律的に動作するようなインテリジェントな生産システムが想定されています。これを実現したのが、「スマート・ファクトリー」です。

インダストリー 4.0の本質は、製品を実物としてのモノではなく、そのモノを作る前段階で情報として、QCD(品質、コスト、納期)をコントロールすることにあります。これまでの製造業と比べて決定的に異なるのが、モノづくりにおいてITネットワーク対応が前提となっている点です。ここでいうネットワークとは、営業・生産など一企業内で閉じたものではありません。サプライ・チェーン上の他企業はもちろんのこと、顧客のニーズから設計・製造工程、顧客による利用までの一連の流れの中で生まれる情報を、モノづくりのネットワークの中でやりとりし、下流工程だけでなく上流工程へもフィードバックすることを意味します。もちろん、そのネットワークは単一商品だけでなく、複数の自社商品にまたがることもあるし、エンジニアリング・チェーン上のパートナー企業、さらには業界を超えることもあります。言い換えれば、製造業が高度な情報産業へと進化するのです。

ところで、日本政府の科学技術政策の基本指針では、サイバー・フィジカル・システムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)を、ソサエティー5.0(Society 5.0*)として提唱しています。ソサエティー5.0は、日本が抱える人口減少や超高齢化、環境・エネルギー、防災対策といった問題への配慮も含み、後述するICT、IoTで「社会のありよう」を変えようとしています

  • *【Society 5.0:狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)といった、人類がこれまで歩んできた社会に次ぐ第5の新たな社会を、イノベーションによって生み出すという意味で「ソサエティー5.0」と名付けられた】

この「ソサエティー 5.0」の具体的な実現方法として、日本版インダストリー 4.0とも言うべき、コネクテッド・インダストリーズ(Connected Industries)というコンセプトを、経済産業省が発表しましたが、その概要にはこう記されています。
“Connected Industries”は、様々なつながりにより新たな付加価値が創出される産業社会。

例えば、
・モノとモノがつながる(IoT)
・人と機械・システムが協働・共創する
・人と技術がつながり、人の知恵・創意を更に引き出す
・国境を越えて企業と企業がつながる
・世代を超えて人と人がつながり、技能や知恵を継承する
・生産者と消費者がつながり、ものづくりだけでなく社会課題の解決を図ることにより付加価値が生まれる。

このあたりの説明を図示したものを、経済産業省が作成していますので、参考までに以下に掲載しておきます。

<経済産業省の資料からの図1>
<経済産業省の資料からの図2>

インダストリー 4.0の全体構造

では、このような社会を実現させるために必要な技術要素には、どのようなものがあるのでしょうか。様々な事柄が考えられますが、ここでは5つのキーワードを挙げておきます。すなわち、IoT、ビッグ・データ、AI、ロボット、クラウドです。これらの各項目については、別項目として詳細な説明を順次して行きますが、先ずはその前にこれらの要素をそれぞれ簡単にまとめておきます。そして、その簡単な定義に基づいて、全体的な構造、言い換えればこれらの要素のつながり方を見て行くことにします。

IoT
:Internet of Thingsの略で、モノのインターネットと呼ばれる技術。あらゆるモノがインターネットにつながり、人間とモノとコンピューターが有機的に結合して、新しい経済価値を生み出すこととなる。
ビッグ・データ
:インターネットの普及とIT技術の進化によって生まれたものであり、これまで企業が扱ってきた以上に、より大容量かつ多様なデータを扱う新たな仕組みを表すもので、その特性は量、頻度(更新速度)、多様性(データの種類)によって規定される。
AI
:Artificial Intelligenceの略で、人工知能と訳される。人工的に作られた、人間のような知能を持つコンピューター。
ロボット
:人間の代わりに何等かの作業を自律的に行う装置、もしくは機械のこと。センサー、知能・制御系、駆動系の3つの要素技術を有する、知能化した機械システム。
クラウド
:クラウド・コンピューティングの略。インターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じて、ユーザーが必要とするシステム機能を提供するサービスに関する技術。インダストリー 4.0以前の技術であるが、インダストリー 4.0における各技術要素をつなぐ、インフラストラクチャー(基礎構造)技術。

次に示しますのは、上述の各要素がつながって、どのような関係性でインダストリー4.0を形成しているかの一例を簡単な図にしたものです。これをご覧いただくとお分かりのように、この一連の流れの中では、従来のプロセスと異なり、判断や制御の部分でさえ人間が関与せずに、システムが自動的にプロセスを完了させてしまうのです。

<インダストリー4.0の全体構造の一例の図>

具体的には、先ずIoT要素であるセンサーにより様々なデータが集められ、それらがインターネットを通じて、クラウド・サーバー上にビッグ・データとして集積されます。そしてAIがこれを機械学習しデータの分析をすることにより、特徴量と呼ばれるデータを抽出したのがスマート・データです。次にこのスマート・データを用いて、与えられた命題に照らしてAIが推論し、判断します。更にAIはこの判断に従って指示を出し、IoT要素のアクチュエーターは自動制御で作動することになります。また、ここではIoTのセンサーとアクチュエーター、スマート・データ、それに推論用AIが一緒になりロボットになっています。