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~クラウド~

クラウド・コンピューティングとは、単にクラウドとも呼ばれ、ユーザーによる直接的かつ能動的な管理なしに、コンピューター・システム・リソース、特にデータ記憶装置及び演算能力が、オン・デマンドで利用できるものです。この用語は一般に、インターネットを介して多くのユーザーが利用できる、データ・センターを表すために使用されます。今日の主流である大規模なクラウドは、中央サーバーから複数の場所に機能を分散していることがよくあります。ユーザーへの接続が比較的近い場合、それはエッジ・サーバー*として指定されてもよいものです。

  • *【エッジ・サーバー:ネットワークの境界内に存在し、内部に設置されているコミュニケーション・サーバー群とファイア・ウォールの外側からサイン・インしたユーザーとの間で、トラフィックをルーティングする、つまりデータの経路指定機能を担うコミュニケーション・サーバーで、ネットワークの端(エッジ)に位置することから、こう呼ばれる】

クラウドには、その使用が単一の組織に限定されるもの(エンタープライズ・クラウド)か、多くの組織で利用可能なもの(パブリック・クラウド)、またはその両方の組み合わせ(ハイブリッド・クラウド)があります。最大のパブリック・クラウドはAmazon AWS*です。

  • *【AWS:Amazon Web Services、ネットショッピングで有名なAmazonが、自社の大量商品の在庫管理やデータ分析を行うため、 ITを駆使して構築したインフラやアプリケーションを一般ユーザーにも公開したのが始まりである】

クラウド・コンピューティングでは、リソースを共有することにより、一貫性とスケール・メリットを実現しています。

パブリック・クラウド(後述)とハイブリッド・クラウド(後述)の支持者たちは、クラウド・コンピューティングにより、企業はITインフラストラクチャーの為の初期費用を回避或いは最小限に抑えることができると述べています。また、クラウド・コンピューティングにより、企業は管理性が向上し、メンテナンスが少なくて済み、アプリケーションを迅速に稼働させることができ、変動し予測できない要求を満たすために、ITチームはリソースをより迅速に調整できるようになります。クラウド・プロバイダーは通常「従量制」課金モデルを使用しますが、管理者がクラウド価格モデルに慣れていない場合、これは予期せぬ運用費用につながる可能性があります。

大容量のネットワークや低コストのコンピューターとデータ記憶装置が入手できるようになり、ハードウェア仮想化*、サービス指向アーキテクチャー**、それにオートノミック・コンピューティング***及びユーティリティー・コンピューティング****の広範な採用により、クラウド・コンピューティングが成長しました。

  • *【ハードウェア仮想化:コンピューターの仮想化を行にあたり、完全なハードウェア・プラットフォームとして仮想化する、その特定の構成部品の論理抽象化を行う、或いは様々なオペレーティング・システムの実行に必要な機能のみを提供する、の何れかでハードウェアの仮想化が行われる。仮想化は、コンピューティング・プラットフォームの物理的特性をユーザーから隠し、代わりに抽象コンピューティング・プラットフォームを提示する。当初は、仮想化を制御するソフトウェアは「制御プログラム」と呼ばれていたが、「ハイパーバイザー」または「仮想マシン・モニター」という用語が次第に好まれるようになった。】
  • **【サービス指向アーキテクチャー:ネットワーク上の通信プロトコルを介して、アプリケーション・コンポーネントによって他のコンポーネントにサービスが提供されるソフトウェア設計のスタイルである。サービス指向アーキテクチャーの基本原則は、ベンダー、製品、及びテクノロジーとは無関係である。ここで言うサービスとは、クレジット・カードの明細書をオン・ラインで取得するなど、リモートからアクセス可能で、独立して動作し更新できる機能の個別の単位である。】
  • ***【オートノミック・コンピューティング:情報処理上の環境変化に対応して、オペレーターの介入なしに、コンピューター自体が対策を講じるシステム】
  • ****【ユーティリティー・コンピューティング:コンピューターの処理能力や記憶容量といったITリソースを必要に応じて購入できる利用方式】

従来のオン・プレミス*による情報システムに対して、クラウド・コンピューティングではユーザーがインターネットなどのネットワークを経由して、各種のコンピューティング・サービスを受けることになります。ユーザー側に必要なものは最低限の接続環境とパーソナル・コンピューターや携帯情報端末などのクライアント、そしてサービス利用料金です。実際に処理の大半を実行するコンピューター群(サーバーやストレージ等)は、サービス提供事業者側のデータ・センター内に設置されていて、それらの資産管理や運用保守などはサービス提供事業者側が実施します。

  • *【オン・プレミス:企業などの組織における情報システムの設置形態の分類で、自社施設の構内に機器を設置してシステムを導入・運用すること。外部の事業者が用意した機材やソフトウェアを通信回線を経由して利用するクラウド型(システム/サービス)の対義語】

この形態で提供されるサービスを「クラウド・コンピューティング・サービス」、又は単に「クラウド・サービス」と言います。そのサービス事業者を「クラウド・サービス・プロバイダー」、又は単に「クラウド・プロバイダー」とも呼びます。なお、新たなパラダイムとして「スカイ・コンピューティング*」、ネットワークがよりデバイスに近い場合のサービスを、「フォグ・コンピューティング**」や「エッジ・コンピューティング***」があります。冒頭でエッジ・サーバーについて触れましたが、エッジはネットワークの外縁であり、コンテンツ・デリバリー・ネットワーク****事業において、ユーザーのアクセスに対して斡旋される最寄りのミラー・サーバーが典型例です。

  • *【スカイ・コンピューティング:複数のクラウド・プロバイダーのリソースをプールし、1つの大規模な分散インフラを構築しようとするものである。この背景には、生物情報科学を始めとして、データが爆発的に増えており、大規模なクラウドですら、その限界に直ぐ達してしまうので、従来型のインフラでは、データを効果的に処理できないという問題がある】
  • **【フォグ・コンピューティング:処理能力をIoTデバイスのあるLAN内に置き、そのネットワーク内のIoTゲートウェイ、或いはフォグ・ノードにデ ータが集められ、処理、貯蔵される。様々なソースから情報がこのゲートウェイに集められ、処理されたデータはそれを必要とするデバイスに送り 返される。クラウド(雲)よりもデバイスに近いところに位置しているためにフォグ(霧)と表現されていて、IoTを実現する仕組みとしてCisco などが提唱、世界的な普及を目指している。】
  • ***【エッジ・コンピューティング:エッジはクラウドとデバイスの境界を表すものである。フォグ・コンピューティングの「処理能力をLAN内に持つ」という考えを更に推し進めたものであり、処理能力はよりデータ・ソース寄りになっている。中央のサーバーでまとめて処理をおこなう代わりに、ネットワーク内の各デバイスが処理を行う】
  • これは、センサーをプログラマブルオートメーションコントローラ(PAC)に接続し、処理や通信をハンドルすることによって可能となる。
  • ****【コンテンツ・デリバリー・ネットワーク:負荷分散ネットワークとも呼び、CDNと略す。ウェブ・コンテンツをインターネット経由で配信するために最適化されたネットワークの事で、グローバルに分散配置したキャッシュ・サーバーにより、安定した配信とパフォーマンスの向上を実現する、高機能コンテンツ配信サービスである】

フル・クラウド方式であれば、端末とインターネット接続環境が用意されていれば良く、社内IT設備を簡素化することが可能になります。従って、機動力の有る中小企業を中心に、軽量ノートPCからクラウド上の業務システムに接続して業務を行う方法を選択し、社内IT設備を簡素化する企業が急速に増加中です。

クラウド・エンジニアリングは、クラウド・コンピューティングへのエンジニアリング分野の応用です。これは、クラウド・コンピューティング・システムの構想、開発、運用、および保守における商業化、標準化、およびガバナンスの高レベルの懸念に対する体系的なアプローチをもたらします。これは、システム、ソフトウェア、Web、パフォーマンス、情報技術エンジニアリング、セキュリティー、プラットフォーム、リスク、品質エンジニアリングなどの様々な分野からの貢献を網羅した学際的な方法です。

【クラウド・サービスのメリットとデメリットのまとめ】

  • 社内サーバーが不要
  • IT投資のリスク軽減
  • 常に最新でメンテナンスが不要
  • 導入や維持に関する社内担当者の負担軽減
  • カスタマイズが苦手
  • サービス継続の不安

【クラウド・コンピューティングの定義と分類】

アメリカ国立標準技術研究所(NIST)では、クラウド・コンピューティングを以下のように説明しています。

クラウド・コンピューティングとは、ネットワーク、サーバー、ストレージ、アプリケーション、サービスなどの構成可能なコンピューティング・リソースの共用プールに対して、便利にオン・デマンドでアクセスが可能であり、最小の管理労力又はサービス・プロバイダー間の相互動作によって、迅速に提供され利用できるという、モデルのひとつである。このクラウド・モデルは可用性を促進し、5つの基本特性と、3つのサービス・モデルと、4つの配置モデルによって構成される。

ここで言う「5つの基本特性」としては、次のような項目が特定されています。

  • オン・デマンド・セルフ・サービス(On-Demand Self-Service)
  • ブロード・ネットワーク・アクセス(Broad Network Access)
  • リソース・プーリング(Resource Pooling)
  • 迅速な弾力性(Rapid Elasticity)
  • 測定サービス(Measured Service)

オンデマンド・セルフ・サービス
ユーザーは、各サービス・プロバイダーとの人間による対話が不要で、必要に応じてサーバーの時間やネットワーク・ストレージなどのコンピューティング機能を、一方的にプロビジョニング*できます。

  • *【プロビジョニング:provisioning、設備やサービスに新たな利用申請や需要が生じた際に、資源の割り当てや設定などを行い、利用や運用が可能な 状態にすること】

ブロード・ネットワーク・アクセス
諸機能はネットワークを介して利用可能であり、異機種環境にあるシン・クライアント*又はシック・クライアント**のプラットフォーム(例えば、携帯電話、タブレット、ラップトップ、ワークステーション等)による使用を促進する、標準的なメカニズムを通じてアクセスされます。

  • *【シン・クライアント:thin client、企業の情報システムにおいて、システムの利用者が使うコンピューター(クライアント)に最低限の機能しか持 たせず、サーバー・コンピューターが集中的にソフトウェアや業務用データなどの資源を管理する方式。また、そのようなシステムに用いられる、機能を絞った低価格のクライアント専用コンピューター】
  • **【シック・クライアント:thick client、又はfat clientとも呼ばれる。クライアント・サーバー型のコンピューター・システムにおいて、利用者が操 作するクライアント側に機能の多くが実装されているもの。古くは単にクライアントと呼ばれていたが、入出力以外の機能を殆ど持たないシン・ク  ライアントが登場したため、区別する形でこのように呼ばれるようになった】

リソース・プーリング
プロバイダーのコンピューティング・リソースは、マルチ・テナント・モデル*を使用して複数のユーザーにサービスを提供するためにプールされ、様々な物理リソースと仮想リソースがユーザーの需要に応じて、動的に割り当てと再割り当てが行われます。

  • *【マルチ・テナント・モデル:multitenancy、「ソフトウェア・マルチテナンシー」という用語は、ソフトウェアの単一インスタンス(ソフトウェ アの分野で、あらかじめ定義されたコンピューター・プログラムやデータ構造などを、メイン・メモリー上に展開して処理・実行できる状態にした もの)がサーバー上で実行され、複数のテナントにサービスを提供するようなソフトウェア・アーキテクチャーを指す。テナントとは、ソフトウェ ア・インスタンスに対する特定の権限を持つ、共通のアクセス権を共有するユーザーのグループである。マルチテナント・アーキテクチャーでは、 ソフトウェア・アプリケーションは、データ、設定、ユーザー管理、テナントの個々の機能、及び機能しないプロパティーなど、全てのテナントに インスタンスの専用共有を提供するように設計されている。マルチテナンシーは、別々のソフトウェア・インスタンスが、異なるテナントの為に動作する、マルチインスタンス・アーキテクチャーとは対照的である】

迅速な弾力性*
提供される様々な機能は、場合によっては自動的に、迅速にかつ弾力的にプロビジョニングやその解除が可能で、需要に見合うように、スケール・アウト**やスケール・イン***ができます。ユーザーにとっては、プロビジョニングに利用可能な機能はしばしば無制限に見え、いつでも任意の数量で割り当てることが可能です。

  • *【弾力性:elasticity、クラウド・コンピューティングにおいて、「弾力性」とは、「各時点で利用可能なリソースが、現在の需要とできるだけ一致するように、リソースを自律的にプロビジョニングおよびプロビジョニング解除することによって、システムがワークロードの変化に適応できる程度」と定義される。弾力性は、クラウド・コンピューティングを、グリッド・コンピューティング(ネットワークを介して多数のコンピューターを連携させ、全体として高性能な並列システムとして利用する方式)などの、以前に提案されたコンピューティング・パラダイムと区別する定義的な特性である。変動する作業負荷を満たすために、例えばコンピューティング・リソースの使用を変更することによる容量の動的適応は、「エラスティック・コンピューティング」と呼ばれる】
  • **【スケール・アウト:scale out、コンピューター・システムの性能を増強する手法の一つで、コンピューターの台数を増やすことでシステム全体の 性能を向上させること。処理を並列化、分散化できるシステムで適用される。一方、コンピューターの構成部品を増設・交換するなどして性能や容量を拡張する手法のことを「スケール・アップ」(scaleup)という。処理の分散化が難しく単体のコンピューターの性能が重要なシステムで適用される】
  • ***【スケール・イン:scale in、スケール・アウトによって拡張した機器構成を縮小、台数を削減することをスケール・インと呼ぶ。IaaSやクラウド ・サービスなどで使用する機器の規模に応じて課金される場合に、不要な台数を削減して費用を減らしたい場合に行われる】

測定サービス
クラウド・システムは、サービスの種類(ストレージ、処理、帯域幅、アクティブなユーザー・アカウントなど)に適した抽象レベルのメータリング*機能を利用することで、リソースの使用を自動的に制御及び最適化します。また、リソース使用量を監視、制御、及び報告することができ、利用されるサービスの提供者とユーザーの双方に透明性を提供します。

  • *【メータリング:metering、請求、リソースの効果的な使用、全体的な予測計画など、様々な理由で、クラウド・プロバイダーがサービスの提供を 測定または監視すること】

以上がNISTによる「5つの基本特性」ですが、次に「3つのサービス・モデル」について述べます。具体的には、次のようになります。

  • IaaS (Infrastructure as a Service)
  • PaaS (Platform as a Service)
  • SaaS (Software as a Service)

IaaS(サービスとしてのインフラストラクチャー)
クラウド・コンピューティング・サービスの最も基本的なカテゴリーで、クラウド・プロバイダーから従量課金制でITインフラストラクチャー(サーバーと仮想マシン*、ストレージ、ネットワーク、オペレーティング・システム)をレンタルすることができます。
そして、ユーザーが、オペレーティング・システムやアプリケーションを含む任意のソフトウェアをデプロイ**して実行することができます。ユーザーは、インターネット・ベースでアクセスして、基盤となるクラウド・インフラストラクチャーを管理や制御するのではなく、オペレーティング・システム、ストレージ、及びデプロイされたアプリケーションを制御し、場合によってはネットワーク・コンポーネント(例えばホスト・ファイアウォール)を、限定管理することができます。

  • *【仮想マシン:コンピューターの動作をエミュレートするソフトウェアやフレームワークである。また、エミュレート(emulate、ある装置やソフトウェア、システムの挙動を別のソフトウェアなどによって模倣し、代替として動作させること)された仮想のコンピューターそのものも仮想マシンという。仮想マシンによって、1つのコンピューター上で複数のコンピューターやOSを動作させたり、別のアーキテクチャー用のソフトウェアを動作させたりすることができる】
  • **【デプロイ:deploy、英語では、配備する、配置する、展開する、配置につく、などの意味を持つ。ソフトウェアの分野では、開発したソフトウェアを利用できるように実際の運用環境に展開すること。インストール(install)に近い意味だが、サーバー・コンピューター上で運用され外部からネットワークを通じて利用されるソフトウェアや、他のソフトウェアから参照されるコンポーネントなどを、利用可能な状態にする、アクセス可能にする、といったニュアンスがある】

PaaS(サービスとしてのプラットフォーム)
後述するSaaSのように、形作られたアプリケーションを提供するサービスではなく、アプリケーションを作ったり動かしたりするための、基本的なソフトウェアやサーバー環境を提供するサービスです。ソフトウェア・アプリケーションの開発、テスト、提供、及び管理のためのオン・デマンド環境を提供し、開発者がWebアプリケーション又はモバイル・アプリケーションを素早く簡単に作成できるように設計されています。
ユーザーに提供される機能は、プログラミング言語、ライブラリー、サービス、及びプロバイダーがサポートするツールを使用して作成されたアプリケーションで、ユーザーが作成又は取得したものを、クラウド・インフラストラクチャー上にデプロイすることです。ユーザーは、ネットワーク、サーバー、オペレーティング・システム、ストレージなどの、基盤となるクラウド・インフラストラクチャーを管理や制御するのではなく、デプロイされたアプリケーションと、場合によってはアプリケーション・ホスティング環境の構成設定を制御します。

SaaS(サービスとしてのソフトウェア)
利用者が必要なときに、ネットワークを通じてソフトウェアを使う形態で、まるで、必要なときにサービスを利用するようなスタイルのために、このように呼ばれています。ソフトウェアの利用形式は、二つに分けられ、一つはアプリケーションをダウンロードしてから自分のPC上で動かして使う形式、もう一つはサービス・プロバイダーのサーバー上で動かす形式です。
これは、オン・デマンドによるサービスであり、通常はサブスクリプション・ベースで、インターネットを介してソフトウェア・アプリケーションを配信するための方法です。SaaSを使用すると、クラウド・プロバイダーはソフトウェア・アプリケーションとその基盤となるインフラストラクチャーをホスト及び管理し、ソフトウェアのアップグレードやセキュリティ・パッチの適用など、あらゆるメンテナンスを処理します。ユーザーはインターネット経由でアプリケーションに接続し、通常は、電話、タブレット、又はPCのウェブ・ブラウザーを使用します。
ユーザーに提供される機能は、クラウド・インフラストラクチャー上で実行されているプロバイダーのアプリケーションを使用することです。アプリケーションは、ウェブ・ブラウザー(例えば、ウェブ・ベースの電子メール)などのシン・クライアント・インターフェース、又はプログラム・インターフェースの何れかを介して、様々なクライアント・デバイスからアクセスが可能です。ユーザーは、ネットワーク、サーバー、オペレーティング・システム、ストレージ、更には個々のアプリケーション機能などの、基盤となるクラウド・インフラストラクチャーを管理又は制御することはありません。ただし例外として、ユーザー固有のアプリケーション構成設定に関する限定制御の可能性はあります。

以上が「3つのサービス・モデル」ですが、最後に「4つの配置モデル」を説明します。
クラウド・コンピューティングを配置形態(デプロイメント)により分類をすると、次のようになります。

  • プライベート・クラウド(Private Cloud)
  • パブリック・クラウド(Public Cloud)
  • ハイブリッド・クラウド(Hybrid Cloud)
  • その他(Others)

プライベート・クラウド
社内で管理されているかサード・パーティによって管理されているかに拘わらず、単一の組織専用に運営されているクラウド・インフラストラクチャーです。プライベート・クラウド・プロジェクトを引き受けるのには、ビジネス環境を仮想化するために多大な関与が求められ、組織も既存のリソースに関する決定事項を再評価する必要があります。それはビジネスの改善にも繋がりますが、プロジェクトのあらゆるステップにおいて、深刻な脆弱性を防ぐために対処を要するセキュリティーの問題を惹き起こすことになります。自営のデータ・センターは、一般的に大きな資本を必要です。また、物理的にかなりの設置面積があり、スペース、ハードウェア、環境制御の割り当てを必要とします。そして、これらの資産は定期的に更新する必要があり、追加の設備投資が発生します。つまり、ユーザーは「更に購入、構築、管理しなければならず」、本来は手間の掛からない管理であるという恩恵を受けられません。要するに、「クラウド・コンピューティングを魅力的なコンセプトにするような、経済モデルを欠いている」という批判を呼んでいるのです。

パブリック・クラウド
クラウドは、公共の利用のために開かれているネットワーク上でサービスが提供されるときに「パブリック・クラウド」と呼ばれます。パブリック・クラウド・サービスは無料の場合があります。技術的にはパブリック・クラウド・アーキテクチャーとプライベート・クラウド・アーキテクチャーの違いは殆ど或いは全く無いかも知れません。しかし、信頼されていないネットワークを介して行われるコミュニケーションであるため、サービス・プロバイダーによって提供される一般ユーザー向けのサービス(アプリケーション、ストレージ、及びその他のリソース)におけるセキュリティーに対する考慮事項は、甚だしく異なるものとなります。一般に、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)、オラクル、マイクロソフト及びグーグルのようなパブリック・クラウド・サービス・プロバイダーは、それらのデータ・センターでインフラストラクチャーを所有および運営し、そしてアクセスは一般にインターネットを介して行われます。AWS、Oracle、Microsoft、及びGoogleはまた、それぞれ「AWS Direct Connect」、「Oracle FastConnect」、「Azure ExpressRoute」、及び「Cloud Interconnect」と呼ばれる、直接接続サービスを提供しています。これらの接続に対しては、顧客は、クラウド・プロバイダーが提供するピアリング*・ポイントまでのプライベート接続を購入するかリ-スする必要があります。

  • *【ピアリング:peering、インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)同士が相互にネットワークを接続し、トラフィック(通信回線やネットワ ーク上で送受信される信号やデータのことや、その量や密度のこと)を交換し合うこと。ピアリングには、それぞれのネットワークの物理的な相互 接続状態と、BGP(Border Gateway Protocol、経路制御プロトコルの一つ。相互通信を行うインターネットを使った通信では、通信を行うパケット の宛先を正確に把握し、維持していく技術が必要で、この経路制御を行うためのプロトコルのこと)によるネットワーク同士の経路情報の交換、そ れぞれのISP間における交渉とピアリングすることの合意が必要となる。一般的にはインターネット・エクスチェンジ(IX)を介して行うものを指す が、IXを介さずにISP同士が直接専用線などを用いて接続を行う場合(プライベート・ピアリング)もある】

ハイブリッド・クラウド
別々のエンティティ(実体)のままでありながら結合されている、2つ以上のクラウド(プライベート、コミュニティー、又はパブリック)の構成であり、複数のデプロイ・モデルの利点を提供します。また、ハイブリッド・クラウドは、コロケーション・サービス*、マネージド・サービス**、専用サービスを、クラウド・リソースと結び付ける機能をも意味します。ガートナー(米国のIT分野の調査・助言を行う企業)は、ハイブリッド・クラウド・サービスを、様々なサービス・プロバイダーからのプライベート、パブリック、及びコミュニティーのクラウド・サービスの組み合わせで構成される、クラウド・コンピューティング・サービスとして定義しています。ハイブリッド・クラウド・サービスは、プライベート・クラウドの分離性やパブリック・クラウドのプロバイダー間の境界性という概念を越えているため、クラウド・サービスの1つのカテゴリーに分類することはできません。別のクラウド・サービスとの集約、統合、カスタマイズを行うことによって、クラウド・サービスの容量又は機能を拡張することができます。
ハイブリッド・クラウド構成には、様々な使用例があります。例えば、組織は機密性の高いクライアント・データをプライベート・クラウド・アプリケーション上に社内で格納することが可能ですが、そのアプリケーションを、ソフトウェア・サービスとしてパブリック・クラウド上で提供されているビジネス・インテリジェンス***・アプリケーションに相互接続することができます。このハイブリッド・クラウドの例では、外部で利用可能なパブリック・クラウド・サービスを追加することにより、企業の保有する機能を拡張して、特定のビジネス・サービスを提供することが可能になります。ハイブリッド・クラウドの採用は、データ・セキュリティーとコンプライアンスの要件、データに必要な制御レベル、組織が使用しているアプリケーションなど、様々な要因によって影響を受けます。
ハイブリッド・クラウドのもう1つの例は、(自社の)プライベート・クラウドでは一時的に不足する必要な容量を補うために、IT組織がパブリック・クラウド・コンピューティング・リソースを使用するケースです。この機能により、ハイブリッド・クラウドでは、クラウド全体に渡りスケール・アウトするためにクラウド・バースティングを採用できます。クラウド・バースティングとは、アプリケーションがプライベート・クラウド又はデータ・センターで実行され、コンピューティング容量に対する需要が増大したときにパブリック・クラウドに「バースト(突入)」するアプリケーション・デプロイメント・モデルです。クラウド・バースティングとハイブリッド・クラウド・モデルの主な利点は、組織が必要なときにのみ追加のコンピューティング・リソースに対して料金を支払うことです。クラウド・バースティングにより、データ・センターは、平均的なワークロードをサポートする社内ITインフラストラクチャーを構築しておいて、処理要求の急増時には、パブリック・クラウド又はプライベート・クラウドからのクラウド・リソースを使用することが可能です。

異機種ハードウェアの上に構築されたハイブリッド・クラウドの特殊モデルは、「クロス・プラットフォーム・ハイブリッド・クラウド」と呼ばれます。クロス・プラットフォーム・ハイブリッド・クラウドは、通常、その下にあるx86-64****とARM*****など、様々なCPUアーキテクチャーによって強化されています。ユーザーは、クラウドのハードウェアの多様性に関する知識がなくても、アプリケーションを透過的に******デプロイ及び拡張できます。この種のクラウドは、サーバー・クラスのコンピューティングのためのARMベースのシステム・オン・チップ*******の出現から生まれたものです。

  • *【コロケーション・サービス:colocation service、通信事業者の局内に、他の通信事業者の通信機器を設置すること。基幹回線(バックボーン)を有する事業者の局舎内にサーバーや交換機、DSLAM(Digital Subscriber Line Access Multiplexer、デジタル加入者線で使われるネットワーク機器で、電話局側にあり、複数の加入者線を多重化して、高速なインターネット・バックボーンに接続する)などを物理的に収容することで、高速かつ低コストな通信が実現される。同時に耐震設備や安定した電源設備などの提供を受けることもできる】
  • **【マネージド・サービス:managed service、通信サービスやITサービスなどの分類の一つで、サービスの利用に必要な機器などの運用や管理、導入時に必要な機器の設置や設定なども一体として提供するサービス】
  • ***【ビジネス・インテリジェンス:business intelligence、企業が日々蓄積されていく膨大なデータを分析し、その分析結果を経営意思決定に活用すること】
  • ****【x86-64:x86(Intel 8086、及びその後方互換性を持つマイクロプロセッサーの命令セット・アーキテクチャーの総称)アーキテクチャーを64ビ ットに拡張した命令セット・アーキテクチャー】
  • *****【ARM:ソフトバンク・グループの子会社である英国ARM Limitedにより設計・ライセンスされている、組み込み機器や低電力アプリケーション向けに広く用いられている、プロセッサー・コアのアーキテクチャー】
  • ******【透過的に:transparently、処理が行われていることをユーザーに意識させないで】
  • *******【システム・オン・チップ:system -on-a-chip (SoC)、ある装置やシステムの動作に必要な機能の全てを、一つの半導体チップに実装する方式。ターゲットとなる装置により構成は異なるが、マイクロプロセッサーを核に各種のコントローラー回路やメモリーなどを統合したチップが多い】

その他

  • コミュニティー・クラウド(Community cloud)
    コンピューティングにおけるコミュニティー・クラウドは、管理をしているのが社内なのかサード・パーティなのか、或いはホストしているのが内部なのか外部なのかに拘わらず、共通の懸念(セキュリティー、コンプライアンス、裁判管轄など)を持つ特定のコミュニティーの組織間で、インフラストラクチャーを共用して行う、共同の努力です。これは、共通の関心を持つ幾つかの組織によって管理及び使用されています。その費用は、パブリック・クラウドよりも少数のユーザーに分散されており(プライベート・クラウドよりも多数ですが)、クラウド・コンピューティングの潜在的なコスト削減の一部しか実現されていません。
  • 分散クラウド(Distributed cloud)
    このクラウド・コンピューティング・プラットフォームは、単一のネットワーク又はハブ・サービスに接続された、様々な場所にある分散したマシンのセットから組み立てることができます。以下に述べる、パブリック・リソース・コンピューティングとボランティア・クラウドの、2種類の分散クラウドを区別することができます。
  • ▶︎ パブリック・リソース・コンピューティング
    この種の分散型クラウドは、クラウド・コンピューティングの広範な定義に由来しているものですが、クラウド・コンピューティングよりも分散型コンピューティングにより近いのです。それにも拘らず、クラウド・コンピューティングのサブ・クラスと見なされています。
  • ▶︎ ボランティア・クラウド
    ボランティア・クラウド・コンピューティングは、パブリック・リソース・コンピューティングとクラウド・コンピ ューティングの交差点として特徴付けられ、クラウド・コンピューティング・インフラストラクチャーはボランティア・リソースを使用して構築されます。この種のインフラストラクチャーは、それを構築するために使用されるリソースの変動性と、それが動作する動的環境のために、多くの課題が生じます。また、ピア・ツー・ピア*・クラウド、又はアド・ホック**・クラウドとも呼ばれます。そのような方向への興味深い取り組みがCloud@Homeと名付けられた新しいコンピューティング・パラダイムです。それは、自発的に提供されるリソースを使用して、クラウド・コンピューティング・インフラストラクチャーを実装し、その対価として経済的な補償を行うことで、このような貢献をすることを奨励するという、ビジネス・モデルを提供することを目的としています。
  • *【ピア・ツー・ピア:peer-to-peer、略語P2P、サーバーとクライアントといった区別なしに、接続されたコンピューター同士が同格で通信し合うネットワーク形態】
  • **【アド・ホック:ad hoc、ラテン語で「特定の、特別の」「限定目的のための」を意味する語句】
  • マルチクラウド(Multicloud)
    マルチクラウドとは、単一の異機種アーキテクチャーで複数のクラウド・コンピューティング・サービスを使用して、単一ベンダーへの依存を減らし、選択による柔軟性を高め、災害に対する緩和などを行うことです。複数のデプロイメント・モード(パブリック、プライベート、レガシー)ではなく、複数のクラウド・サービスを指すという点で、ハイブリッド・クラウドとは異なります。
  • ビッグ・データ・クラウド(Big Data cloud)
    大量のデータをクラウドに転送する問題や、データがクラウドに入った後のデータ・セキュリティーの問題は、当初 はビッグ・データ用にクラウドを採用することの妨げになっていました。しかし、現在では多くのデータはクラウド から発生していますし、ベア・メタル・サーバー*の出現により、クラウドは、ビジネス分析や地理空間分析などの ユース・ケース**へのソリューションになりました。
  • *【ベア・メタル・サーバー:bare metal server、「シングル・テナントの物理サーバー」であるコンピューター・サーバーを指す。この用語は、現代の仮想化やクラウド・ホスティングと区別するために、現在使用されている。複数のベア・メタル・サーバーには、単一の「テナント」があり、それらは顧客間で共有されない。各サーバーは、顧客のために任意の量の作業を実行することも、複数の同時ユーザーを持つこともできるが、それらは完全にそれらを借りている顧客専用である。データ・センター内の多くのサーバーとは異なり、それらは複数の顧客間で共有されていない。ベア・メタル・サーバーは「物理」サーバーである。レンタル用に提供される各論理サーバーは、それ自体が機能的なサーバーとなる、ハードウェアの個別の物理的部分である。それらは、共有ハードウェア上において、複数で稼働している仮想サーバーではない。】
  • **【ユース・ケース:use case、システムに対する要求仕様を導くために、ユース・ケース図(use case diagram)などでシステムの振る舞いを記述したもの】
  • HPCクラウド(HPC cloud)
    HPCクラウドとは、高性能コンピューティング(high performance computing HPC)用のアプリケーション を実行するために、クラウド・コンピューティング・サービス及びインフラストラクチャーを使用することを指しま す。これらのアプリケーションはかなりの量の計算能力とメモリーを消費し、伝統的にコンピューター群上で実行さ れています。2016年には、R-HPC、Amazon Webサービス、Univa、Silicon Graphics International、Sa balcore、Gomput、Penguin Computingなどの一握りの企業が、HPCクラウドを提供しました。Penguin On Demand(POD)クラウドは、従量課金制で提供される、非仮想化リモートHPCサービスの最初の1つでした。 Penguin Computingは、仮想化コンピューティング・ノードを使用した、AmazonのEC2 Elastic Compute Cloud*に代わるものとして、2016年にHPCクラウドを発売しました。
  • *【EC2 Elastic Compute Cloud:(Amazon EC2)は、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)・クラウドで、サイズが変更できるコンピューティング・キャパシティを提供するもの。Amazon EC2 の使用により、ハードウェアに事前投資する必要がなくなり、アプリケーションをより速く開発およびデプロイできる。Amazon EC2 を使用して必要な数(又はそれ以下)の仮想サーバーを起動して、セキュリティーおよびネットワーキングの設定と、ストレージの管理を行う。Amazon EC2では、要件変更や需要増に対応して迅速に拡張または縮小できるため、サーバー・トラフィック予測が不要になる】